救援活動をしている欧米のボランティアは、移住を拒否したものが射殺されたり、父親が忌避したら息子を連れていった、というような現場を目撃している。
同地方で、ある援助団体が調査したところ、移住者の一五%は家族と離れ離れになっていたという。
逃げようとしてトラックから飛び下りてけがをしたり死んだ例は数えきれない。
この政策をめぐって、米国政府や援助団体などから「少なからず人命の奪われている重大な人権侵害」とする批判が起きているのも、こうした強引なやり方が原因だ。
メンギスツ大統領は「わが国が貧困から脱出し、外国への依存を軽減するためにも、移住させるのは当然である。
世界銀行や国連の報告書をみても、北部の高地では長年の農耕や牧畜によって自然が荒廃し、それが干ばつの被害を深刻にしたのは明らかだ。
その圧力を軽減しなければならず、またいつか干ばつに襲われるかわからない以上、一刻も早く移動させる必要がある。
最終的には二一○万人の移住を目指す」と、一九八七年三月の第六回党中央委員会総会で改めて確認している。
エチオピア各地を回っていると、強制移住に踏み切らざるを得ない状況も理解はできる。
エチオピアは高地にあるために気候が温暖で水にも恵まれ、かつて国土の半分以上は森林で覆われていた。
それが、一九六〇年の調査で一六%を割り、八六年の最新の推定では二・五%も残っていない。
毎年二〇万ヘクタール、つまり東京都とほぼ同じ面積の森林が消えているのだ。
世界でも最も急激に森林を喪失した国である。
最大の理由は一九八七年には四五〇〇万人を突破、二十数年ごとに倍増してきた人口である。
家畜も人間の増加と正比例して増えていく。
人間は薪を切り出し、森林を焼き払い、伐り払って畑や放牧地に変える。
家畜は、容赦なく緑を食べ荒らしていく。
とくに自然の破壊は、干ばつの常習地帯となった北部に集中的に現れている。
北部三州では農耕地の七割が土壌侵食を起こし、農業生産が急速に低下している。
しかも、緑が減ると雨も減り、慢性的に干ばつ飢餓に悩まされることになった。
東アフリカで長年生態学の調査に打ち込んできた英国の地理学者レスリー・ブラウンは著書『東アフリカ山地と湖』の中で、「エチオピアを北から南に旅していけば、この国の発達の歴史と土壌悪化の跡をたどれる」と述べている。
古代エジプト文明の影響を受けて農耕が始まったとされるこの国の開発は、北から南へと進んできた。
その歴史は、現在も進行しているように、木を伐り尽くし土地の生産力を食い潰しては南下していく、という略奪的なものであった。
建国以来、首都所在地は北から南へ八ヵ所も移動している。
まさに自然の略奪の跡である。
その最後のアジスアベバも今や深刻な薪不足で、首都移転の話がちらほら出ているほどだ。
だが、干ばつのためとはいえ、故郷から引き抜かれて千数百4口も運ばれて見知らぬ土地に放り出された人々はどうしているだろうか。
私は一九八六年に、彼らがトラックで運ばれていった道を追った。
海抜二七〇〇メートルのアジスアベバから、どんどん高度を落としながら丸二日走り続けて、やっとエチオピア西端のガンベラ郊外の集団移住地に入った。
隣国スーダンまでは一〇〇キロもない。
標高五〇〇メートルのこの地は、熱帯性気候のまっただ中にある。
昼前というのに、気温は四二度を超えていた。
しかし、移住者が駆り出されていったウォロ州北部の村では、日中でも二〇度を超すことは少なく、朝夕は暖房が必要なほどだった。
目指すは、町から三〇キロほど離れた移動先。
町を出ると典型的なサバンナ林がつづく。
一面に火入れで焼け焦げた原野が広がり、その中に樹木が点在する。
この一帯はエチオピアで最大の野生動物の宝庫といわれた「ガンベラ国立公園」。
だが、過去三〇年間繰り返された焼き畑で、うっそうと茂った熱帯林がこんなサバンナ林になってしまい、今では動物の姿を見かけることもめったにない。
移住地に近づくと、原野が数百ヘクタール単位でトラクターによって掘り起こされているのが目に入る。
根こそぎ掘り起こされた大木がごろごろしている。
ここは五ヵ所つくられた大規模移住地の中でも、最大の開墾地。
移住者が一週間も車にゆられて運ばれてきた終点である。
移住地といっても、荒野の中にアクトと呼ばれる円筒形のワラ家が立ち並んでいるだけ。
せいぜい二〇平方メートルほどの室内の真ん中に、石を三つ並べただけのかまど。
ここに一家一〇人前後が住む。
この一帯だけで、三〇万人が四つの集落に分けられて入植した。
どの家の前にも薪が山と積まれている。
車で来る途中も、薪の束を背負った人々と数多くすれ違った。
わずかな現金収入を求めて、近くの町まで売りに行くのだ。
入植一年にして、周囲の数キロ四方の木が姿を消した。
単純に計算しても、五年たったら何キロも歩かないと薪をとることは困難になるだろう。
この一帯での伝統的な農法は、小面積を焼いて三年間ほど作物をつくってあとは放置する。
一〇~二〇年たつと、やがてサバンナ林が再生してくるので再び火を放つ、という典型的な焼き畑である。
しかし現在行われているのは、援助で導入されたトラクターで大面積に整地してそれを農民に下げわたす機械化農業である。
というのも、ここは家畜の大敵ツェツェバエの流行地で、牛耕ができないからだ。
一挙に二〇〇〇ヘクタール以上を開墾され、乾期の太陽と雨期の豪雨で土地が侵食されるのを防いできた切り株や草や石も取り除かれた。
ガンベラ川に沿って開墾された農地に着くと、木一本見当たらない。
川をのぞくと、泥をたっぷり含んだ泥流となっている。
侵食が進んで、土砂が流れ込んでいるのだ。
エチオピアの田園地帯を回っていると、農家の庭先には必ず、脱穀をすませたワラや、燃料にするための牛フンが積み上げてあるものだが、ここにはそれがない。
全員が配給の食糧に頼っているのだ。
管理する農業省の計画では、前年移住してきた人は、もう自活しているはずである。
この入植地は、年間の雨量が一五〇〇ミリもあることと、空からみて広い平坦地があることから選ばれた。
だが、入植後、この雨量が裏目に出て、ガンベラ川が氾濫、開墾地は水浸しになってごく一部でしか作付けができなかった。
しかも、土質は粘土と砂で農業には適さないことがわかった。
川岸をあきらめて、離れた山腹の開墾を始めているが、ここは酸性度の高い上で、専門家はよほど土壌の改良をしなければ農業は無理、とみている。
移住地の中を即席の担架で運ばれている病人に何人も出会った。
この暑さの中でカタカタ震えているので一目瞭然、マラリアと分かる。
診療所をのぞくと、毛布をすっぽりかぶって地べたの上で震えている人が、何十人もいる。
海抜三〇〇〇メートルを超える高地に住んでいた人々にとって、この蒸し暑い気候もマラリアも無縁のものだった。
その対処の仕方もわからないまま、次々に倒れていくようだ。
ある農業省の役人は「一晩で五〇人が死んだ翌朝、トラクターで大きな溝を掘ってそこに死体を投げ込んで埋めていたのを目撃した」と語っていた。
公式に死者の数は明らかにされていないが、犠牲者はかなり多いに違いない。
実は、集団移住政策は今回が初めてではない。
前回一九七二~七四年の干ばつの後、七六~八一年にかけて、同じように北部の干ばつ被災者を集団移住させた。
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